八月十五日 巴の両親について
人ならざる人型存在『外存在』達を把握・共存を目標とする組織で活動する主人公、結(ゆい)。その先輩、八月十五日(なかあき)の過去。
いつの間にか親がすり変わっていたかもしれないっていうやつ。
現在修正中なので、ちゃんと書きたいなぁ。
俺の両親だ?普通だよ普通。
なるほど、俺がめちゃくちゃ強いから親もそれ系統だと思った、な。
まぁそう思うさな。
じゃあまずは俺の実家の話でもするか。
ンだよ、意外そうな顔して。お前はこの『組織』に所属してるし同じ支部職員だから大丈夫だろ。
意味ありげだって?
そりゃあな。
俺の両親についてはこの『組織』である程度のキャリアがないと知っちゃいけねぇんだ。無論、俺も教えちゃいけねぇしな。
……何処行こうとしてんだ。逃げんなよ。
そろそろ盆だし、近々俺の両親から電話がかかってくる。お前、絶対巻き込まれるぜ。予習だと思って聴きやがれ。
俺の地元は結構な田舎でな…あとは廃れるだけの過疎化一直線な所だ。
んで、実家はその地域の神社を管理していた。いわば神職の家系だな。といっても周辺は人は少ねぇし、これと言った大きな行事もない。足場の悪い階段をそこそこ登らないとで、爺婆だらけな集落だと日常的に人が来ない。
人が来るなんて年末年始ぐらいだろうかって感じだ。
だから何かやるとしても、だいたいは神社の掃除をしたり、たまに末社の様子を見に行ったりするぐらいだったな。
八月十五日(なかあき)なんて珍しい苗字も家系の問題でなったんだとか。8月15日は旧暦の十五夜らしいぞ。詳しくは知らんけど。
話を戻してだ。
俺が高校一年生の夏。盆が過ぎたあたりだな。その時の俺は上京して学生寮に住んでたんだ。
地元は田舎過ぎて不便だったから、俺含め大体の奴らはそうしてた。
んで、大型休みの時に実家に戻ってくる感じで無論俺もそうしてた。
数少ない地元の友人と宿題したり、学校の話をしたり、バカ騒ぎしてまさに青春の日々だったぜ。
勿論、神社の手伝いも忘れてねぇよ。久々に地元に帰ってきたんだ。そん時はそこそこ張り切ってたさ。
んでだ、ここからが本題。
そう…さっきも言ったが盆が過ぎたあたり。俺は末社の掃除をしに行った。
あぁ、末社ってのは簡単に言うと本殿とはちょい離れた所にある小さな社だ。
廃れてても一応しっかりあるんだよな。
でもほぼ山の中の神社だ。
本殿以外は結構草木が生い茂ってたし、両親も神社の管理しながら別な仕事就いてたみたいで数ヶ月は手入れがされてなかったんだ。
雑草が生い茂ってたから、とりあえず末社の周辺だけでも抜かねえとなぁと思って早朝の涼しい内に取り掛かったんよ。笹や太い茎もあって、屈みながら小さい鎌で切ったりもしてさ。
んで、屈んで作業してる時に、社を支えてる柱と地面の隙間から何かキラリと光った物が見えたんだ。思わず手を伸ばしたさ。
それは、『結婚指輪』だった。
傍にもう1つ同じ物があって、当然拾う。なぜ結婚指輪だと解ったって?そりゃあ、両親がいつも身につけていた物と同じだったからさ。
指輪の内側には結婚記念日の8/15と掘られていて、間違いなかった。
『苗字を記念日にしたら忘れないでしょ?』と言っていたのを覚えている。
ただそれだけなら…偶然にも、2人共ここで指輪を落としただけと『勘違い』をしたまま日常を過ごす事ができた。
でも出来なかったんだよ。
俺は、指輪が転がっていた近くにまた別な物を見つけた。見つけてしまった。
カラカラした、白いチョークみたいな欠片。
その瞬間、嫌な汗がどっと吹き出た。
チョークみたいな欠片は『人骨』だ。
素人でもわかるぐらい綺麗な指の骨。
そのひと関節。
動物の骨と思いたかったが、結婚指輪と一緒にあるのがダメだった。あの時の俺には人骨以外思い浮かばなかったし、残念なことに、人の死が溢れてるこの組織である程度の知識がついてしまった今の俺は、あれは人骨だったと確信して言える。
「なんだよこれ…」
絞り出せた言葉は陳腐な言葉だった。
当然、ド田舎の廃れた神社の中。
誰にも聞こえやしない。
でもな、そこでタイミングよく「巴ー?」「どこにいるのー?」と俺を呼ぶ声が聞こえたんだ。
それは間違いなく俺の両親だ。
『心配してきてくれたのだろう』と骨と結婚指輪を見つけてしまう前の俺なら素直に思えたが…正直言って、現状は意味がわからなかった。
そういえば両親は俺が帰ってきた時に結婚指輪はつけていなかった。
特に気にしていなかったが、いつもつけていた宝物だった筈なのに。
足音はどんどん近づいてくる。
どうする?
『掃除をしていたら骨が見つかった』と正直に伝えるか?
ならこの結婚指輪は?どうしても、無関係に思えないんだ。
そう考えてる内にもさらに近づく足音。
「お、末社にいたのか。だいぶ綺麗にしてくれたんだな〜」
「朝ご飯出来てるわよ。一回帰りましょう」
「…うん、ありがとう。父さん、母さん。だいぶ終わったぜ」
俺は一旦、全て隠した。
人骨は柱と地面の隙間に転がして、2人の結婚指輪は咄嗟に服のポケットに入れたさ。なんだかな、家族を疑うように考えるのは疲れのせいだとか、人骨は見間違いだとか適当な言い訳を自分にしてよ。俺は家に戻ったんだ。
でも一つだけ、確認したいことがあった。
「なぁ、2人の結婚記念日って覚えてる?」
「どうした?急に」
両親は朝飯を食べる手を止めて、不思議そうにこちらを向いた。
「いや…いつもならこの時期『どこに旅行に行こう〜!』って騒いでるから」
「そうだったわね!…ど忘れしちゃってたわ。歳かしら?」
「……そっか。8月15日だろ?苗字と同じにしたって何回も俺に話してくれてたじゃねーか」
「あぁそうだったな!仕事が忙しくてすっかり忘れてた。そうだな〜。旅行の予約はとれないから、何か三人で美味いもの食いに行くか!」
「いいわね〜!海鮮なんてどう?」
「そ、そこは2人で相談してくれよ…。2人の記念日なんだからさ」
その時の俺は何とか誤魔化した。
…誤魔化せた、と思う。
ここら辺じゃ1番仲の良い夫婦と呼ばれていて、結婚記念日には旅行に行く2人が記念日を忘れるはずがないんだ。
末社で見つけた人骨と結婚指輪が頭をよぎる。
ただその奇妙な違和感のせいで俺はそれとなく距離を置くようになってしまった。
「そういえばさ、巴ん家の父ちゃんと母ちゃん」
「ん?」
それから二日後、友人の家で少し残ってた課題をやってた時に、些細な違和感は疑心に変わった。
「四月にバスツアーで出掛けた時に事故にあったんだろ?」
「…え?」
一気に血の気が引く。
「一緒に行ってた俺の母ちゃんも巻き込まれて足折ったんだよ。父ちゃんは軽く頭打っただけだった。でも。よく二人とも大きな怪我しないで帰ってこれたよな。言ってなかったのか?」
「は、初耳…」
「大して怪我してなかったんなら連絡しねえか」
「…お前の母ちゃんはもう大丈夫なのか?」
「おう!『心配かけたくなかったから』って治ってから連絡きてさぁ〜。マジ焦ったぜ」
「そうか…。無事で良かったな」
「…どうした?顔色悪いぜ」
その時の俺は酷い顔だったんだろうな。正面にいた友人の顔はやけに心配そうな表情をしていた。
「…やっぱ帰るわ。ちょい横になったら治るべ」
爆発しそうなぐらい音が鳴る心臓を隠しながら、俺は友人の家を出た。
あの時は宙ぶらりんな気持ちだったな。
そのまま家に帰って、晩飯の時間に訊ねたんだ。
「春先に行ったバスツアーで事故にあったんだろ?なんで教えてくれなかったんだよ。本当に怪我とかなかったのか?」と。
両親は「運良く何も無かったんだ」と、いつもの声色と調子で返されて終わった。自分の中の疑心がどんどん濃くなっていったさ。
どうにも腑が落ちなかったんだよな。
かと言って、末社で見つけた人骨について目の前の両親に訊く事は出来なかった。
訊いたら後戻り出来なくなりそうな感じがしてさ。おかげで俺は命拾いしてるのかも知れないけど。
ん?物騒な話になってきただって?
まぁ本題はここからだ。
俺は人骨を確かめに行こうと思ったんだ。さすがに夜は怖いから日中にな。
神社って夜だと余計に不気味なんだよ。意外と洒落にならねぇからな。
もちろん、親には内緒にした。友達と宿題の続きしてくるとか適当な嘘ついたっけ。
人骨を見つけた場所は狭い隙間だったからな。小さいシャベルで掘るしか無かった。誰かがそこに埋めるにしたって手前になる筈だろう?だから少し掘って、指以外の骨があるか確認するだけにしようとしたんだ。
とにかく俺は、少しでも確信できるモノが欲しかったんだ。
昼少し前に取り掛かる。
この前見つけた人骨はそのまま地面に転がっていた。
さく、さく、と、ほとんど這うような格好をしながら手探りで掘り進める。
程なくしてシャベルが何かに当たった。取り出そうとしたけど難しくてもたつく。
盆を過ぎてもまだ夏だ。とても暑かった。
そしてあの、暑さ特有のイラつきも出てきて…そうだな、思考が狭まってたんだろうな。最終的には素手で引っ張りだそうとしたさ。
その時めまいがした。
多分、長時間変な姿勢であんな風通りの悪い場所にいたせいだな。
そして、あっけなく倒れちまった。
目が覚めたら診療所だった。
すぐ側に先生がいて、どうやら熱中症で倒れちまったところを両親が見つけて事なきを得たと説明してくれた。
あのまま倒れていたら命の危険があったみたいだ。
そう、あのタイミングで絶対遭いたくなかった両親が見つけたんだよ。
先生の説教なんか全く聞こえなくて、人骨を掘り出そうとしたのがバレたのかと真っ先に思った。あの時はまだ生きてる心地がしなかったさ。
そしてついに、先生と入れ替わりで両親がポカリを持ってやってきた。
そのまま、いつもの様に叱られた。
バレなかったのか…?と少しだけほっとしたような気がする。
「そういえば巴、なんで末社にいた?友達と宿題するんじゃなかったのか」
父が訊く。当然だよな。
「ひ、昼前だからって一旦別れたんだよ。んで暇になったから家にシャベル取りに行って、まだ途中だった雑草抜きしてたんだ」
咄嗟の言い訳にしては我ながら上手くいったと思うぜ。声は上擦ってたがな。
問題は、両親が末社の柱と地面の間を覗いたり、俺が人骨っぽいものを取りかけたことがバレてないかだった。
……結論から言って、そんなことはなかった。 両親は素直に納得してくれたさ。
俺が倒れてたから周りをよく見てなかったのかも。良かった。本当に良かった。
……そう思うことにした。
余計な詮索は不必要な気がしたんだ。藪蛇に近いかな。
『実はあそこに人骨があったんだ』とか『2人の結婚指輪が末社に落ちてた』とか『本当に2人は俺の両親?』とかは訊けなかった。
あれ以上踏み込んだら、あの頃の俺は両親を両親と見れなくなってしまったと思う。
その瞬間、俺には『良くないこと』が起こるとびびっときた。
昔からこういう勘はいいんだよな。俺。
そうだ…あの頃から、俺は純粋に両親を両親として見られなくなった。『両親の姿形をした何か』としか見られなかったんだ。
でもな、姿はもちろん性格も、癖も、記憶も変わらないんだ。だから俺の過度な妄想かもしれない。そう思いつつも、やっぱり俺は怖かった。
あれ以来、俺は地元へ帰る回数を少なくした。家に帰ったあとも神社には行かなかった。
そして大学…俺の場合は自衛隊的なやつなんだが。それっきり実家へは帰らなくなった。毎年実家へ戻ってこないのかと電話が来るが、忙しいと言って行かなかった。
戻ったらあの末社が気になって仕方ないし、とにかく疑心暗鬼になって休みどころじゃねえ。
さて、ここからはうちの『組織』が絡む話だ。
ちょいホラーみたいで怖かったか?はは、ここからはテンポよくいくぜ。
俺は大学卒業後、そこそこな特殊部隊に所属したんだ。運動神経良いしな。その時に岡本さんにスカウトされて、今の『外存在組織91地区支部』の職員となった。
でもあの人は本当に意地が悪い。
俺をスカウトした理由は運動神経の良さだけじゃなかった。俺がある『外存在』と接触して、かつまだ繋がりがあるかららしい。
ここまで聞いたら解るだろ?あの両親さ。
最初は驚いたよ。でも合点がいった。あぁ、やっぱりなって。
話の初めに、盆近くに俺の親から連絡が来るっつったよな?そして俺は、毎年それを断わっていたと。
でも今年は違う。お前がいる。
『人外の言葉が解り、話せる体質』のお前、結・モーゼフが。
上層部は俺とお前を使って接触を試みるらしい。もちろん、拒否権はない。
推定危険度 5 『無尽蔵の父母』
こいつらは各国で基準とされている未成年の子供の前に現れる。わかっていることは、その父母が自分の子供がいない場所で死んでしまった際に、特定の条件下で出現し、誰にも悟られぬまま、その両親に『成り代わる』外存在だ。理由も目的も不明。
問題なのは、世界中を監視しているウチの組織が、その『総数』の把握が出来ていないこと。
…そう、この外存在は一体だけじゃない。今言った『条件を満たした未成年』なんか世の中に何処にでも居るだろ?そして、コイツらは全世界どこにでも、無尽蔵に現れる。確実に今も出現して、子供が成人になるまで、たくさんの『何処かで死んだ』両親に成り代わってる。当然見分けもつかない。
人の死を偽装する、得体の知れない外存在なんだ。
「親かと思っていた人間がいつの間にか死んでいて、親じゃない『何か』にすり変わっているかもしれない。最高に、不気味だろう?」