過去は廻る
革命組織『vice』の小話
白亜登場回はこんな感じ。ここから物語は本番なんです。(はよ本編書け)(夏には書くよ)
「お母さんたちはちょっと忘れ物をしたからここにいてね」
「すぐ戻るから」
「わかったよ。お母さん、お父さん」
さようなら。
それが、最後に聞いた親の言葉。
突然だけど、自分は俗に言う『能力者』だと思う。理由は簡単で、僕に触った人が謎の怪我をするから。
例えば、少しぶつかっただけで近くの窓ガラスが割れて破片が相手に刺さったり、唐突に物が降ってきたり。
僕の白い髪をからかって引っぱった子は、目の前でハンドルが壊れた車に轢かれて両足を骨折した。
あくまで全部『事故』だから、気味悪がられても能力者だと捕まることは無かったし、お母さんとお父さんもそれは嫌だったのか、家から出さない様にするだけで終わった。ちなみにさすがにお母さんとお父さんには触れる。それでも不気味がって、あまり僕とは関わらない。
僕の世界は家の中で本を読むことと、国のシンボルである鐘の音を聴いて一日が過ぎるのを待つこと。その繰り返し。
でもある日、親が街中に連れてってくれた。人に触らないように生地の厚い服を着せてくれて、目立つ白い髪を隠すように帽子を被って、二人の間に挟まってお出かけする。甘 いものも食べたり、公園を歩いたり。普通の散歩に近かった。
それでも…とても、とても楽しかった。
同時に、『あぁ、きっとこれでさいごなんだろうな』と他人事のように思った。
そして冒頭。親は戻ってこない。
やっぱり捨てられた。いつか来るとは思ってたし、家出しようと思ってたから不思議とあまり悲しくはない。
えっと、僕何歳だっけな?今年で、8歳…だったはず。
たぶん、歳の割に頭は回る方だと思う。誰とも喋らず、遊ばないで家の中でたくさん本を読んでいたせいだろうか?
ボーン、と夕暮れ時に鐘の音が響く。
公園のベンチでずっと座っているけど、このままいるのはダメだな、と思ってとりあえず歩くことにした。もし僕が能力者なら、きっとすぐ捕まる。捕まったあとどうなるのかは、考えたくもない。
能力者は、本でしか読んだことないけど悲しい人達だと思う。だって、能力は生まれつきなんでしょ?欲しくて手に入れたものじゃないのに、そのせいで『よくないもの』と世界中に言われて、虐められている。僕が生まれつき白い髪でからかわれるのと同じだと思った。
なんとなく人に触っちゃダメなのを理解している僕は、なるべく人が少ない場所を探し歩いていた。
これからどうしようかなんて検討もない。とにかく歩いて、歩いて、疲れた時に考えよう。不思議と涙は出てこない。
「もしもし僕?」
「………あっ、」
俯いて歩いていたら、肩を誰かに掴まれた。服越しだから、きっとまだ大丈夫。『変なこと』は起きないはず。
恐る恐る顔を上げると。警察の帽子を被った男の人が、心配そうにこっちを見ている。
「あ、あの、」
「もう少しで暗くなるよ。お母さんとお父さんは?はぐれたのかい?」
警察の人は、親切で声をかけてくれているのはわかった。でも、今の僕は『触られた』『これからどうしよう』という気持ちでいっぱいで。カタカタと、体が震える。
「大丈夫?」
「ーーーーー!!」
震える僕の手を、警察の人は優しく握ってくれる。違う、『握らせてしまった』
「触らないで!!」
「えっ、うわぁ!!」
パシン、とつい手をはたいてしまった。
同時に警察の人の手が、カマイタチで切られた様に傷まみれになる。
「ごめんなさい…!」
僕はそのままその場から逃げた。
後ろで何か大きな声で言っている。
帽子が落ちて白い髪が顕になる。
帰りの時間なのか、人が多くなりつつある道で脇目も振らず走る。人とぶつかる。後ろで何か嫌な音がする。叫び声も聞こえる。その繰り返し。息が切れても、怒鳴り声が聞こえても、僕は走り続けるしか出来ない。なんで、なんで、僕ばかり??僕は一体何なの??
たくさんの人とぶつかりながら走っていると地震のように地面が揺れ、ガラッと頭上から何かが崩れる音がして思わず立ち止まる。石造りの建物が、ボロボロと降ってきた。でも不思議と僕の頭上に欠片はない。
ーーまるで、僕の周りにいる人たち全員を標的にしているような……。
「……!?わっ、」
呆気に取られていると、強引に引っ張られ、突然の浮遊感に襲われる。
…誰かに脇に挟まれて担がれている?
視界に薔薇の蔓のようなものが一瞬見えた。勢いよく何処かからとび出たそれらは、瓦礫を更に細かく砕く。砂埃が舞うので、思わず目を閉じてしまった。
更に風を切るような音がしたかと思うと、どこかへ着地する音。コツ、と靴音が耳に届いた。
「お疲れ様〜!」
「間一髪だったぞ。死人もいないだろう」
雑に担がれたまま、頭上から誰かと誰かが会話している声。呆気に取られて声も出せないと、担いでいた人が僕を下ろしてくれた。
吹き抜ける風が気持ちいい。どこかの屋上かな。
…というか、触られた…!!?
急いで距離をとる。
それでも周りには何も起きない。
視線を前にやると、杏色の髪をした女の人と、紫色の髪をポニーテールで結んだ男の人がいた。たぶん、杏色の髪の人が自分を担いでくれた人だ。二人は驚くわけでもなく、静かに僕を見つめる。
「…この惨状はお前の能力か?」
「派手にやったねー。制御できてないっぽい?」
「……その、……あ…れ…?」
『助けてくれてありがとうございます』そう言おうとしたのに、どっと汗が吹き出て、僕の視界は暗転した。走り回ったせい?違う、もっとべつな…………。
「おっと」
今度は紫色の髪の男…十闇が少年を受け止めた。すうすうと寝息を立てて眠る白い髪をした小さな少年を不思議そうに抱き抱える。
「…この子供は能力者だな」
「うーーん…」
杏色の髪の女…イヨが顔をのぞき込む。酷く顔色が悪く、早く安静にさせないと命に関わるかもしれない。
十闇はその瞳で見た人間の内面を見ることが出来る特殊な種族、吸魂鬼だ。
じいっと、紅色の瞳で白い少年を見つめる。
「…たぶん、能力者。でも無自覚。触られるのが発動のトリガー?常時発動系なのかな。だから他人と関わりたいけど、すごい恐怖心がある。何故かオレ等は何ともないけど…。多分、今は能力を使いすぎたから疲労している感じ。どうする?」
「なら、パニックになって能力が暴走した形に近いな。ここに捨て置くほど薄情ではない。基地に連れていこう」
パトカーや救急車のサイレンが響く。屋上から街中を覗くと、先程建物があった場所には警察と救助隊が大勢来ていた。
「…これをコイツがやったのなら、結構な訳ありだ」
「ねー。にしても偶然こんなことに出くわすなんて」
十闇は思わず苦笑する。
……二人の視線の先は、倒壊した建物と負傷した人達で溢れ返している。軽く災害が起きた様な光景だった。
「飛出雲(ひいずも)国には和菓子を食べに来ただけだったのになぁ…。帰るか」
「はーい」
再び風を斬るような音を残して、十闇達は『空間転移』で自分達が所属している革命組織、viceの基地へと戻る。
これが、白い少年…白亜との出逢い。
『能力者の差別がない世界』を目指す革命組織の目的とはまた別に、彼ら彼女たちの運命が水面下で動き始めた瞬間だった。