子猫を拾った
能力者最大の諜報組織となる前の二人の話。
日暗さんとラグナの出会い。短いよ。
俺の右腕であるラグナと出会ったのは、確か30年ぐらい前だ。
俺が本名を言わないせいか(というか、言う機会が無い)世間が勝手に俺の事を『影狼』『日暗』『神速』と呼び始めて百年近く経った頃。
誰かの下に着く、何処かに所属するという気持ちがない俺は1人で世界各国の情報をかき集め、精査して、革命組織に売るという諜報活動をしていた。
ただし限度がある。何せ一人での活動だ。世界全てを把握は出来ない。
でも、これからは電子機器が発達して更に情報が必要になることも肌で感じている。そんな時、
「……大丈夫か?」
とある街の路地裏で、猫耳が生えた少年を拾った。
とりあえず馴染みの宿に運んで猫耳少年をベットにおろす。
血色は悪いが外傷はほとんどない。
寝息も落ち着いている。疲労と空腹で倒れた感じだろう。
朱色の髪に紛れる猫耳。そしてゆるりと揺れる尻尾。おそらく最近現れ始めている異なる世界からの来訪者…『異人』だ。遭遇するのは初めてだ。
当然、人間に見つかれば当然殺されるか実験台になる。ある意味能力者や混血者よりも生きづらい者たち。
「うーん、どーしようかなぁ。にしてもこの耳ふわふわだなぁ」
髪とは違う触り心地に思わず撫でまくる。
そうしてたらピクリと瞼が動いて飛び起きた。
見開く瞳は紫で、猫みたいに縦に開いた瞳孔。完璧に猫と混ざってる人種みたいだ。
「あ〜〜。大丈夫。俺は何もしてない。怪我してたお前を拾っただけ」
手を広げて敵意がないことをアピールすると、猫耳少年は睨みながらも小首を傾げる。
「〜〜〜!!」
「ん?なんて?」
「 !」
「あ、言葉か…そりゃ異なる世界から来たら言語も違うか…」
困ったな…。このままだと誤解を抱かれたまま逃げられそうだ。そしたらすぐ軍に捕まるだろう。それは夢見が悪い。
「…ん?」
互いに何か考えて気まずい沈黙の中、くぅ〜と腹のなる音。当然、猫耳少年からだ。俺はいまさっき宿の人に頼んで作ってもらった粥を猫耳少年の横に置く。
毒味も兼ねてまず俺が1口食べる。安全なのを確認して、猫耳少年に食べるよう指で促した。
すると、しばらく悩んだ後に恐る恐る1口食べ始める。美味しかったのか、耳と尻尾をぴこぴこ動かしながら忙しなくスプーンを動かしてた。
「さて、どーしようかなぁ。言語…名前…」
「ニャ、ナ、マエ??」
「そうそう名前!言葉、わかる?」
「ス、すこし。わかる?」
「すげぇな…。ん?あれか?前におっさんが言ってた世界への適応か…?異物が入ってきた時、世界は均衡を保つためにそれを適応させようとするつってたな……。あ、悪い」
だいぶ前に俺の師匠が話していた『理』が頭をよぎり、つい口に出してしまう。猫耳少年が言葉を理解できる日は意外と近いのかもしれない。
「名前は?」
「なまえ」
「そう、アンタのなまえ」
トン、と胸に人差し指を当てる。
それで理解したのか、猫耳少年は口を開いた。
「…ラグナ」
「ラグナ!」
こくこくと猫耳少年もとい、ラグナは頷く。
名前さえ分かればあとはどうとでも会話が出来る。
「アンタ、なまえ」
俺の真似をしてトン、と人差し指を胸に当ててくるラグナ。俺の名前…と一瞬他人事のように感じてしまった。久々に訊かれた。本当に久々で、遡れば二百年ぶりぐらいだ。つい笑みが零れる。
「俺はーーーーー、」
これが、とある子猫。とある猫耳少年もといラグナとの出会い。
…現在、総人数百人を超える諜報組織、『影狼』のはじまりだった。